今回は、前歯のガタガタを治したいことを主訴に来院された20代女性の患者さまに対し、抜歯とIPRを併用したマウスピース型矯正治療を行った症例をご紹介します。
初診時には、右下4番の欠損に加え、上下顎に重度の叢生が認められました。
本来であれば、上顎左右4番・左下4番を抜歯して全顎的に矯正を行う方が、噛み合わせまで含めるとより適切と考えられる症例でした。
一方で、患者さまには治療期間や費用をできるだけ抑えたいという希望がありました。
そのため今回は、審美的な改善が見込め、かつ咬合バランスを大きく崩さない範囲を慎重に検討したうえで、治療方針を決定しました。
主訴と初診時の状態

患者さまは、前歯のガタガタを治したいことを主訴に来院されました。
初診時には、上下顎ともに重度の叢生が認められ、前歯部の配列不正が強い状態でした。
また、右下4番はすでに欠損しており、歯列全体として左右差のある状態でした。
このような症例では、単に前歯を並べるだけでなく、抜歯部位の選択や咬合バランスまで考えた治療計画が重要になります。
- 年齢・性別:20代 女性
- 主訴:前歯のガタガタを治したい
- 不正咬合の種類:上下顎重度叢生
- 特記事項:右下4番欠損
治療の内容と詳細
・治療内容:右上3番・左下1番抜歯、IPR併用、インビザラインによる抜歯部分矯正
本症例は、診断上は上顎左右4番・左下4番を抜歯して全顎矯正を行う方が、より理想的な治療計画と考えられる口腔内でした。
しかし、患者さまの希望として、治療期間や費用をできるだけ抑えたいという背景がありました。
そのため今回は、患者さまに十分説明を行ったうえで、右上3番・左下1番の抜歯とIPRを併用して配列を行う方針としました。
右上3番と左下1番を選択した理由は、他の歯の移動距離をできるだけ少なくし、なるべくシンプルな移動で治療を進めるためです。
歯の移動距離が短い方が、治療の予測実現性は高くなると考えています。
また、噛み合わせの変化をできるだけ避けるため、臼歯部は極力動かさずに治療を行いました。
そのうえで、咬合のバランスを大きく崩さないよう、右下3番遠心にはあえてスペースを残す設計としています。
当院では、理想的な全顎矯正ではない場合でも、審美的な改善が見込め、かつ最低限の咬合バランスが保てると判断できる場合に限って、このような部分的な矯正治療を選択しています。
- 治療期間:約12か月
- 来院回数:約7回
- アライナー枚数:初回23枚、追加9枚、追加8枚(合計40枚)
- 治療費:約70万円(税込)


治療後の状態
治療後は、前歯部の叢生が改善し、見た目の印象は大きく整いました。
患者さまが最も気にされていた前歯のガタガタが改善したことで、審美的にも満足いただける結果となりました。
また、理想的な咬合関係を完全に目指す治療ではないものの、事前に計画した範囲内で咬み合わせのバランスも確保しています。
患者さまは、希望していた治療方針で改善が得られたことを大変喜んでおられました。
インビザライン治療のポイント
この症例で重要だったのは、理想的な治療計画と、患者さまが実際に受け入れられる治療のバランスをどう取るかという点でした。
本来であれば、より標準的な抜歯パターンで全顎矯正を行う方が、咬合まで含めた完成度は高くなります。
一方で、マウスピース矯正は患者さまに長時間の装着を求める治療であり、治療前に想像している以上に生活への負担がかかることもあります。
そのため当院では、常に理想だけを追い求めるのではなく、バランスが取れる範囲であれば、よりシンプルで現実的な治療になるように設計することも大切にしています。
もちろん、見た目だけを整えるために、無理にIPRを行って雰囲気だけ並べるような治療は行っていません。
患者さまのその後の人生まで考えたうえで、審美的改善が見込め、かつ機能的にも大きな問題を残しにくいと判断した場合にのみ、このような治療方針を選択しています。
副作用とリスク
- 歯の動きに伴い、痛みを感じる場合があります。
- マウスピース型矯正装置は、装着時間が不足すると予定どおりに歯が動かないことがあります。
- IPRを行う症例では、適応を誤ると咬合バランスや歯の形態に影響することがあります。
- 理想的な全顎矯正と比較すると、咬合の完成度に限界がある場合があります。
- 治療計画によっては、一部にスペースを残して咬合バランスを取る場合があります。
- 矯正治療後は、後戻りを防ぐため保定装置(リテーナー)の使用が必要です。
まとめ
重度の叢生では、本来であれば全顎的な抜歯矯正が適切と考えられる症例も少なくありません。
一方で、治療期間や費用、生活への負担など、患者さまごとの事情によって治療の選択肢は変わります。
本症例では、理想的な治療計画とは異なる部分はあるものの、患者さまの希望をふまえたうえで、審美的な改善と最低限の咬合バランスの両立を目指して治療を行いました。
当院では、見た目だけを整えるための無理な治療は行わず、患者さまの口腔内の安定を重視した治療方針をご提案しています。
前歯のガタガタや歯並びでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。