概要
今回は、歯のガタガタを治したいことを主訴に来院された10代女性の患者さまに対し、抜歯を併用したインビザライン治療を行った症例をご紹介します。
重度の叢生では、ただ歯を並べればよいわけではありません。
顔貌、骨格、歯列の大きさ、歯の位置、噛み合わせを確認したうえで、どの歯を残し、どの歯をどこに動かすべきかを適切に判断することが大切です。
本症例では、右上側切歯が完全に口蓋側へ転位し、上下顎に重度の叢生が認められました。
一見すると、歯列から外れている歯を抜いて簡単に並べたくなるような症例ですが、そのような治療は審美的にも機能的にも不利になることがあります。
当院では、治療の難易度を下げるために歯列から外れた歯を安易に抜歯するのではなく、適切な歯を適切な位置に配置することを大切にしています。
主訴と初診時の状態

患者さまは、歯のガタガタを治したいことを主訴に来院されました。
初診時には、上下顎に重度の叢生が認められ、顔貌と上顎歯列の正中は1歯分右側にずれていました。
また、右上側切歯は完全に口蓋側へ転位しており、歯列から大きく外れた状態でした。
骨格的には、やや下顎前突傾向も認められました。
- 年齢・性別:10代女性
- 主訴:歯のガタガタを治したい
- 不正咬合の種類:上下顎重度叢生
- 状態:顔貌と上顎歯列の正中が1歯分右側にずれている
- 特記事項:右上側切歯が完全に口蓋側に転位
- 骨格的所見:やや下顎前突傾向
治療の内容と詳細
- 治療内容:抜歯併用のインビザライン治療
- IPR:なし
本症例では、顔貌や骨格まで含めて適切な審美性と咬合を獲得するためには、上下左右の第1小臼歯の抜歯が必要と判断しました。
このような重度叢生を、もし非抜歯で無理に並べようとすると、歯列と歯槽骨の大きさの不一致により、歯根が歯槽骨の外側へ出てしまうことがあります。
その結果、歯肉退縮や歯の動揺が生じるリスクがあります。
また、本症例のように右上側切歯が大きく転位していると、右上2や右上3を抜歯して治療を簡単にしたくなるケースもあります。
しかし、そのような抜歯は
- スマイルの自然さを損なう
- 大切な犬歯の機能を失う
- 噛み合わせとしてのリスクを残す
可能性があり、審美的にも機能的にも不利です。
当院では、治療の難易度を下げるための安易な抜歯は行いません。
歯列から外れている歯であっても、本来残すべき歯であれば、きちんと歯列に取り込むことが大切だと考えています。
一方で、歯の移動量や歯軸を踏まえて診断した結果、今回はマウスピース矯正でもワイヤー矯正と遜色ない期間で治療を終えられると判断しました。
患者さまは、目立たない装置を希望されており、学校が遠方のため通院頻度を減らしたいという希望もあったため、インビザラインを選択しました。
- 治療期間:約18か月
- 通院回数:10回
- アライナー枚数:初回71枚、追加29枚、合計130枚
- 費用:約103万円(税込)
治療後の状態


治療後は、正中のずれが改善し、口蓋側に位置していた右上側切歯も歯列内に取り込まれました。
上下顎の重度叢生は解消され、全体として自然な歯列と口元が得られました。
患者さまからは、想像していたよりも短期間で治療が完了した。綺麗になって嬉しいとの言葉をいただきました。
治療のポイント
この症例で重要だったのは、「どの歯を抜くか」ではなく、「どの歯をどう残して並べるべきか」を正しく考えることでした。
重度叢生では、見た目だけでなく、歯槽骨の範囲内で安全に歯を動かせるか、将来的に歯肉退縮や動揺のリスクがないかまで考えて診断する必要があります。
そのため、単に非抜歯で並べることが患者さんにとって良いとは限りません。
また、歯列から外れている歯を安易に抜歯してしまうと、一見並んだように見えても、
- 不自然なスマイルになる
- 犬歯誘導などの重要な機能を失う
- 長期的な咬合の安定性を損なう
ことがあります。
本症例では、抜歯の必要性がある一方で、抜くべき歯と残すべき歯を正しく見極めることがとても重要でした。
そしてそのうえで、マウスピース矯正でも十分対応可能と判断し、患者さまの希望にも合った治療方法としてインビザラインを選択しました。また、本症例は小臼歯4本を抜歯して行った重度叢生の治療でしたが、約18か月で治療を終えることができました。抜歯矯正は長期間かかると思われがちですが、適切な診断と治療設計、そして患者さまの協力があれば、マウスピース矯正でも効率よく治療を進めることも可能です。
副作用とリスク
- 歯の動きに伴い、痛みを感じる場合があります。
- 抜歯を伴う矯正治療では、治療期間が長くなることがあります。
- インビザラインは、装着時間が不足すると予定どおりに歯が動かないことがあります。
- 治療期間には個人差があります。
- 歯を大きく動かす症例では、歯根吸収、歯肉退縮、歯槽骨の菲薄化に注意が必要です。
- 矯正治療後は、後戻りを防ぐため保定装置(リテーナー)の使用が必要です。
- 咬合の安定には、治療後の経過観察も重要です。
まとめ
重度の叢生では、ただ歯を並べるだけでは、自然な見た目や安定した噛み合わせは得られません。
大切なのは、非抜歯で無理に広げるべきではない症例を見極めること、そして残すべき歯を安易に抜歯しないことです。
本症例では、上下左右の第1小臼歯の抜歯を行い、口蓋側へ転位していた右上側切歯もきちんと歯列に取り込みました。
その結果、正中のずれも改善し、審美的にも機能的にも自然な歯列を得ることができました。
また、重度の叢生だからといって、必ずしもワイヤー矯正でなければ治せないわけではありません。
歯の移動量や歯軸を適切に診断し、治療設計を丁寧に行えば、マウスピース矯正でも十分対応できる症例はあります。
当院では、重度叢生や抜歯矯正においても、単に並べるのではなく、患者さまの将来まで見据えて治療方法を選択しています。
歯並びのガタガタでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。