デジタル歯科は、チームの知識と連携によって完成します
デジタル機器やAIが発達しても、データを入れれば自動的に最適な治療が完成するわけではありません。

患者さん一人ひとりの状態を読み取り、治療のゴールを設計し、実際の口腔内へ再現するためには、歯科医師と歯科技工士の知識、技術、経験、そして連携が必要です。
当院では、患者さんから見えにくい部分にも多くの準備を重ね、正確でスムーズな治療を目指しています。
診療前・診療後に、ほぼ毎日続けている打ち合わせ
当院では現在も、大阪の歯科技工所THKの歯科技工士・仮屋淳一氏と、ほぼ毎日、診療前や診療後にオンラインで画面を共有しながら症例の確認と打ち合わせを行っています。
確認しているのは、完成するクラウンやラミネートベニア、インプラントの上部構造の色や形だけではありません。
患者さんの顔貌、口元、歯の位置、噛み合わせ、歯肉との関係、清掃性、使用する材料、治療の順番、仮歯の設計、インプラントの位置、矯正治療でどの歯をどの方向へ動かすかなど、症例に応じて多くの項目を細かく検討します。
画面上でデータを重ね、問題になりそうな場所を確認し、必要であれば設計を修正する。歯科医師が口腔内で行う処置と、歯科技工士が画面上・模型上で行う作業をすり合わせ、治療当日の流れまで確認します。
患者さんが診療室へ入ってから考え始めるのではありません。
正確でスムーズな治療を行うためには、実際の診療が始まる前に、どれだけ細かく準備できているかが重要です。
患者さんからは見えにくい部分ですが、当院では一回の診療のために、歯科医師と歯科技工士が多くの時間を使って準備しています。
スムーズな治療は、その場で急いで行う治療ではありません。事前に十分な検討と準備を行っているからこそ、診療当日の無駄や迷いを減らすことができます。
この日々の打ち合わせと準備が、当院のデジタル歯科の重要な土台になっています。
データを入れれば、AIが自動的に歯を作ってくれるわけではない
デジタル歯科技工という言葉から、口腔内のデータをコンピューターへ入力すれば、AIや機械が自動的にクラウンやラミネートベニアを完成させるイメージを持たれるかもしれません。
しかし、現在のデジタル歯科技工は、まだそのようなものではありません。
患者さん一人ひとりで、骨格、顔貌の雰囲気、歯の形、噛み合わせ、歯肉との関係、口元、清掃のしやすさ、周囲の歯や顔貌との調和は異なります。
ソフトウェアが提案した形をそのまま採用するのではなく、歯科技工士が治療のゴールを理解し、症例ごとに形態、接触関係、噛み合わせなどを画面上で細かく調整していきます。
また、同じデータを使用しても、どの機械で、どの材料を、どのように加工するかによって、完成する補綴装置の精度や質感は変わります。
歯科材料には、それぞれ強度、透明感、加工性、焼成や重合に伴う変化などの特性があります。加工機にも、それぞれ得意な加工方法や、再現できる細かさに違いがあります。
そのため、精度の高い補綴装置を製作するには、設計ソフトを操作できるだけでは十分ではありません。
使用する機械と材料の特性を熟知し、加工後の変化まで予測しながら設計を微調整できる、デジタル技術に卓越した歯科技工士が必要です。
アナログ時代に手と感覚で表現していた匠の技を、デジタル時代には画面上の緻密な設計と調整によって表現する。
デジタル化によって、歯科技工士の技術が不要になったのではありません。
従来の歯科技工に関する知識と経験に加え、データ、設計ソフト、加工機、材料を総合的に理解する力が必要になり、歯科技工士に求められる能力は、むしろ広がっています。
クラウンやラミネートベニアだけではありません
歯科医師と歯科技工士が細かく設定しているのは、クラウンやラミネートベニアのデザインだけではありません。
矯正治療においても、最終的な歯並びのセットアップや、そこへ至るまでの歯の移動工程を確認・調整しています。
何本目のアライナーで、どの歯を、どの方向へ、どの程度動かすのか。歯を並べるためのスペースをどこに作るのか。前歯の位置は顔貌や口元と調和しているか。歯根が歯槽骨から外れるような無理な移動になっていないか。奥歯の噛み合わせに不要な変化を起こさないか。
こうした点を考えながら、歯科医師や歯科技工士がデジタル上の計画を細かく検討します。
矯正装置が歯を動かしてくれるからといって、治療計画まで装置やAIへ任せてよいわけではありません。
どの位置を治療のゴールとするのか。そのゴールまで、どのような順序で安全性と予測実現性に配慮しながら歯を動かすのか。そこには、顔貌、骨格、噛み合わせ、補綴、歯周組織などを総合的に考える力が必要です。
デジタルで設定したゴールを、口腔内で再現するために
デジタル上で治療のゴールを設定しても、それだけで実際の口腔内に同じ結果を再現できるわけではありません。
設計したゴールを口腔内へ再現する歯科医師の技術も必要です。デジタルによって治療の状態や計画との差を可視化できるようになったからこそ、より高い技術力が求められると考えています。
デジタルを使い続けたからこそ、アナログの必要性も分かる
さまざまな症例でデジタル技術を使用し、試行錯誤を重ねるなかで分かったことがあります。
それは、すべてをデジタルに置き換えることが、必ずしも患者さんにとって最良の結果につながるわけではないということです。
デジタルには、情報の可視化、計測、保存、重ね合わせ、迅速な共有、治療結果の検証など、多くの長所があります。
一方で、症例によっては、従来の印象採得、模型上での確認、手作業による形態・色調の調整、実際の口腔内での触覚や視覚を用いた確認など、アナログな工程を加えた方が、より確実な結果を得られる場合があります。
必要に応じて、デジタルで取得した情報をアナログの工程で確認・修正することもあれば、アナログで得られた情報を再びデジタル設計へ反映することもあります。
デジタルを長く使い、試行錯誤してきたからこそ、デジタルだけでは十分でない場面も分かる。
大切なのは、デジタルかアナログかではありません。
患者さん一人ひとりの状態と治療目的に応じて、どちらを、どの場面で、どのように組み合わせるかを判断することです。
機器を持つことではなく、使いこなす知恵が強みになる
当院の強みは、デジタル機器を保有していることだけではありません。
デジタルとアナログの両方を理解し、歯科医師と歯科技工士の知識、技術、経験、連携を、患者さん一人ひとりの治療結果へつなげられることです。
患者さんごとに適切な方法を選び、必要な工程を組み合わせながら、より良い結果を目指していきます。
関連コラム
インプラント治療において、デジタル上で立てた計画を実際の手術へ反映する考え方については、X-Guideによるインプラント治療とはでもご紹介しています。
※治療方法や使用する機器、デジタルとアナログの工程は、患者さんのお口の状態や治療目的によって異なります。すべての治療を同じデジタルワークフローで行うものではありません。十分な診査・診断を行い、患者さんと相談したうえで治療方法を決定します。