「いつも口が開いている」「寝ているときに口で呼吸しているように見える」「歯並びも気になる」——お子さんのお口ポカンや口呼吸について、このような相談を受けることがあります。
当院では、お口ポカンを単に歯並びの問題としては扱いません。鼻で呼吸できているか、睡眠に気になる点がないか、舌や唇がどのように使われているか、歯列や顎の成長にどのような特徴があるかを、まとめて確認します。
お口ポカンと口呼吸は、同じとは限りません
口が開いているからといって、必ずしも口呼吸をしているとは限りません。唇を閉じにくい、舌が低い位置にある、飲み込むときに唇や顎に力が入る、鼻づまりがある、睡眠中のいびきがあるなど、背景は一人ひとり異なります。
口呼吸と顔貌・噛み合わせとの関連を報告した研究はありますが、すべてが口呼吸だけで決まるわけではありません。だからこそ、「口を閉じましょう」と声をかけるだけで終わらせず、原因を整理することが大切です。鼻や喉の状態が関係すると考えられる場合は、耳鼻咽喉科での確認をご提案します。
当院が最初に確認すること
- いつも口が開いていないか、唇を自然に閉じられるか
- 鼻づまり、いびき、睡眠中の呼吸で気になる点がないか
- 舌の安静時の位置、飲み込み方、発音や食べ方に特徴がないか
- 受け口、交叉咬合、叢生、顎の狭さ、歯列の左右差がないか
- 姿勢、指しゃぶりなど、成長に影響し得る習癖が続いていないか
診断が大切なのは、矯正装置を使うこと自体が目的ではないからです。お子さんが将来、どのような歯列・噛み合わせ・口元を目指すのかを考え、そのために必要なことだけを選びます。
確認の結果、すぐに矯正治療や装置の使用を始めない場合もあります。成長の経過を見守ること、耳鼻咽喉科での評価を優先すること、生活習慣や口腔機能への取り組みから始めることも、適切な治療計画の一部です。
当院では、早く治療を始めること自体を目的にせず、その時点で必要な介入を見極めます。
MFTと装置は「使い方」を整えるための手段です
口腔筋機能療法(MFT)では、舌の安静時の位置、唇の使い方、飲み込み方などを確認し、必要に応じて練習を行います。プレオルソ、マイオブレース、インビザライン IPE、インビザライン・ファーストも、すべてのお子さんに同じように使うものではありません。
鼻の病気や形態的な問題がある場合は、トレーニングだけで解決できるとは限りません。また、良い習慣は一度伝えれば必ず身につくものでもありません。ご本人の理解と継続、ご家族の協力、必要に応じた他科との連携が重要です。
大人の治療を多く行うからこそ、小児期の意味を感じています
当院では、大人の矯正治療や、崩れた噛み合わせを再建する治療にも多く取り組んでいます。長年の噛み合わせによるすり減り、歯を失ったことによる歯の傾きや挺出、過去の治療で変化した歯の形、歯周組織の問題を整理し、口全体のゴールから逆算して治療を組み立てます。
その治療の中で、「子どもの頃から呼吸、舌や唇の使い方、噛み合わせに介入できていたら、この方の将来は少し違っていたのではないか」と考えることがあります。すべてを小児期に防げるわけではありませんが、将来お口のことで苦労するお子さんを少しでも減らしたい。それが当院が小児矯正を大切にする理由です。
院長自身も、大人になってから習慣を変える難しさを感じています
院長自身も、口呼吸や低位舌の傾向があり、しっかり噛んで食べることを苦手に感じています。MFTや鼻呼吸を意識して取り組んでいますが、大人になってから習慣や姿勢を変えることは簡単ではありません。
お子さんなら必ず身につけられる、という意味ではありません。それでも、成長期に適切な呼吸や舌・唇の使い方を知り、良い習慣に取り組むことは、その後の人生を支える土台になり得ると考えています。
小児期の口腔機能と、将来の口腔機能
高齢期には、噛む・飲み込む・話すといった口腔機能が低下する「口腔機能低下症」や、口腔機能のささいな衰えである「オーラルフレイル」が注目されています。口腔機能の低下は、フレイルなど全身の状態とも関連することが報告されています。
小児期の治療だけで、将来の口腔機能低下やフレイルを防げると証明されているわけではありません。しかし、幼い頃から適切に噛み、飲み込み、鼻で呼吸し、口を使うことを身につける意義は大きいと当院では考えます。もちろん、その後も歯の健康、食事、運動、社会とのつながりを含めた継続的なケアが必要です。
一期治療と二期治療について
小児期に行う治療は、一期治療だけで必ず完結するものではありません。
一期治療では、顎の成長、口呼吸や低位舌などの習癖、永久歯が並ぶための環境に早期に働きかけます。一方で、永久歯が生えそろった後の歯並びや噛み合わせまで、すべてを一期治療だけで整えられるとは限りません。
成長の途中で予測と異なる変化が起こることもあるため、永久歯列期に二期治療が必要になる場合があります。当院では「二期治療を避けること」だけを目的にせず、将来の治療の負担を減らし、必要になった場合もより無理のない治療につなげることを大切にしています。
反対に、一期治療を行うことで、二期治療が不要になる、治療期間を短くできる、抜歯の可能性を減らせる可能性もあります。ただし、成長や歯の大きさ、習癖、永久歯の生え方には個人差があるため、治療開始時に結果を保証することはできません。定期的に成長を確認し、その時点で最も適切な選択を一緒に考えます。
いつ相談すればよいですか?
「いつも口が開いている」「鼻づまりやいびきが気になる」「受け口、歯の重なり、噛み合わせのずれがある」と感じた時点で、ご相談ください。すぐに治療が必要でない場合も、成長のどこを見ていくべきかを確認できます。
実際の治療開始は、年齢だけで決めません。お子さんが説明を理解し、こちらの指示に応じて、トレーニングや装置の使用に一緒に取り組める状態を大切にしています。意思の疎通がまだ難しい時期は、基本的に経過観察を行います。
小児矯正の開始時期や、乳歯列で確認するポイントについては、子どもの矯正はいつから?|口呼吸・お口ポカンと顎の発育を早めに確認する理由もあわせてご覧ください。
よくあるご質問
お口ポカンは矯正だけで改善しますか?
原因によります。歯列や舌・唇の機能が関係する場合もありますが、鼻づまりや睡眠、耳鼻咽喉科的な問題が関係する場合もあります。当院では原因を整理し、必要に応じて他科と連携します。
小児矯正をすれば、二期治療は不要になりますか?
不要になる場合もありますが、永久歯がそろった後に追加の矯正が必要になる場合もあります。将来の負担を減らし、必要な治療をより無理なく行える状態につなげることを目指します。
相談だけでもよいですか?
もちろんです。今すぐ治療が必要か、経過を見てよいか、耳鼻咽喉科への相談を優先すべきかを一緒に確認します。
※診断、適応、治療開始時期、治療期間、効果には個人差があります。必要に応じて耳鼻咽喉科など他科への受診をご提案する場合があります。
治療後も、口腔機能と成長を確認します
MFTや矯正装置を用いた後も、呼吸、舌や唇の使い方、噛み合わせは成長とともに変化します。当院では、装置の使用を終えることだけを目標にせず、定期的に状態を確認し、得られた治療結果を長く守ることを大切にしています。
参考文献
- Zhao Z, et al. Effects of mouth breathing on facial skeletal development in children: a systematic review and meta-analysis. BMC Oral Health. 2021;21:108.
- Lin L, et al. The impact of mouth breathing on dentofacial development: a concise review. Front Public Health. 2022;10:929165.
- 小児閉塞性睡眠時無呼吸症に対する口腔筋機能療法の現状・展望. 小児耳鼻咽喉科. 2019.
- Tanaka T, et al. Oral hypofunction and its association with frailty in community-dwelling older people. Geriatr Gerontol Int. 2020.