「永久歯が生えてこない」「前歯の横の歯が、生まれつきないと言われた」「矯正が終わったら、大人になってインプラントが必要だと説明された」「大人になっても乳歯が残っている」。このようなお悩みで来院される方がいます。
上顎側切歯、つまり上の前歯の中央から数えて2番目の歯が先天的にない状態は、上顎側切歯の先天欠損、あるいは先天性欠如と呼ばれます。歯科医療者の間では「先欠」と表現されることもあります。
当院では、前歯部のインプラント治療にも日常的に取り組んでいます。年間100本以上のインプラントを埋入しており、前歯部で骨や歯肉、噛み合わせ、審美性まで考慮したインプラント治療が必要となる症例も数多く診ています。
そのうえで、上顎側切歯の先天欠損がある若年者に対して、当院では接着性ブリッジを必ず第一にご提案し、積極的に勧めています。
これは、インプラント治療を行えないからでも、インプラント治療を否定しているからでもありません。前歯部インプラントの適応と難しさを理解しているからこそ、若い患者さんに対しては、歯をできるだけ削らず、外科処置を避け、将来の選択肢を残せる接着性ブリッジを大切にしたいと考えています。
永久歯が生えてこない・乳歯が残っている場合に考えること
永久歯が生えてこない理由は、先天性欠損だけではありません。永久歯が存在していても、埋まったまま生えてこられない埋伏歯などの可能性もあります。
そのため、「前歯の横の永久歯が生えてこない」「乳歯が大人になっても残っている」という場合には、まずレントゲン写真などで永久歯の有無、歯の位置、周囲の骨、噛み合わせを確認することが大切です。
日本小児歯科学会が行った全国規模の調査では、第三大臼歯を除く永久歯の先天性欠如は、対象となった15,544名の小児の10.09%に認められました。欠如が多い歯種として、下顎第二小臼歯、下顎側切歯、上顎第二小臼歯に続き、上顎側切歯が挙げられています。
これは、すべての日本人小児における現在の有病率を示す数字ではなく、調査に参加した医療機関等を受診した小児を対象とした結果です。しかし、上顎側切歯の先天欠損が決してまれな問題ではなく、早期から継続的に考える必要があることを示す重要な資料です。
今の子どもに増えているのでしょうか
上顎側切歯の先天欠損が、現在の子どもで以前より増えていると断定できる、全国規模で同じ方法を用いた継続調査は確認できません。そのため、「最近の子どもに急に増えた」とは言い切れません。
一方で、矯正治療を受ける方や歯並びについて相談する方が増え、パノラマエックス線写真や口腔内スキャンなどを用いて、歯の本数、歯の大きさ、スペース、噛み合わせまで評価する機会は増えています。
以前は、一般開業医で乳歯が残っていても、すぐに大きな問題として扱われず経過を見られていたケースもあったかもしれません。現在は矯正治療や審美的な治療計画のなかで、側切歯の先天欠損が前歯全体のバランスや将来の補綴治療に大きく関わることが、より意識されるようになったと当院では考えています。
「増えた」ことと、「診断され、治療計画として注目されるようになった」ことは別です。当院では、後者の側面が大きいのではないかと考えています。
上顎側切歯の先天欠損で考えられる治療法
上顎側切歯の先天欠損に対しては、主に次のような方法があります。
- 矯正治療でスペースを閉じ、犬歯を側切歯の位置へ移動して形を整える方法
- スペースを確保・維持し、接着性ブリッジで補う方法
- 条件が整った時期にインプラントで補う方法
- 従来型ブリッジで補う方法
- 状況によっては、義歯を用いる方法
どの方法がよいかは、年齢だけでは決まりません。治療法ごとの長所と短所を理解し、患者さんの口腔内の条件と将来の希望に合う方法を選ぶ必要があります。
すきっ歯のように見える場合は、先に矯正治療でスペースを整えます
上顎側切歯の先天欠損があるお子さんでは、欠損部だけでなく、前歯全体のすき間や歯の大きさのバランスが気になることがあります。見た目には、すきっ歯のように見える状態になっている方も少なくありません。
このような場合、欠損部だけに人工歯を入れても、前歯全体の幅や左右のバランスが整わず、自然な見た目にならないことがあります。
当院では、必要に応じて先に矯正治療を行い、歯の位置と空隙の配分を整えたうえで、接着性ブリッジによる治療を行います。
大切なのは、単に空いている部分を埋めることではありません。左右の歯の幅、歯の位置、歯肉の見え方、噛み合わせ、将来の変化まで考え、人工歯が自然に見え、機能しやすいスペースを作ることです。
矯正治療によって適切なスペースを確保・維持してから接着性ブリッジを行うことで、歯を大きく削らず、前歯全体の調和を目指せる場合があります。
当院では、欠損部だけを見て治療法を決めるのではなく、前歯全体のバランス、歯の幅や形、歯肉のライン、口元との調和、噛み合わせまで確認します。そのうえで、患者さんごとに、できるだけ自然で審美的な見た目につながる選択肢を第一に考えています。
若年者には、接着性ブリッジを必ず勧めます
当院では、上顎側切歯の先天欠損がある若年者に対して、接着性ブリッジを必ず第一の選択肢としてご説明し、積極的に勧めます。
これは、若い患者さんの将来を考えた当院の診療哲学です。
インプラントは優れた治療法ですが、天然歯と同じように動いたり、萌出したりするわけではありません。一方で、成長期を過ぎた後も、顔面骨、歯槽部、天然歯には変化が続くことがあります。特に前歯部では、長期的にインプラントの歯だけが相対的に低く見える、歯肉のラインや隣在歯との位置関係に差が出るなど、審美面の課題が生じる可能性があります。
接着性ブリッジは、隣在歯を大きく削らず、外科処置を避けながら固定式の歯を補える方法です。将来、口腔内の条件や患者さんの希望が変化した場合にも、再接着、再製作、別の治療方法への移行を検討しやすく、選択肢を残せます。
当院では、歯がないからという理由だけで、インプラントを選ぶべきだとは考えていません。本当に必要性がある部位に、適切な時期と条件でインプラントを行うことが重要です。
必要性を十分に検討しないまま、若い患者さんにインプラントを入れることは、当院ではあってはならないことだと考えています。
前歯の審美性を決めるのは、人工歯だけではありません
「インプラントにすれば、自然で審美的な前歯になりますか」と質問を受けることがあります。
人工歯の材料や形を整えることは重要です。しかし、前歯の審美性を決めるのは、人工歯そのものだけではありません。自然に見える前歯には、周囲の骨や歯肉が大きく関係します。
- 歯肉の厚みが十分にあるか
- 歯肉のラインが左右でそろっているか
- 歯と歯の間の歯肉が保たれているか
- 欠損部の骨の幅や高さが十分にあるか
- 笑ったときに歯肉がどの程度見えるか
- 隣の歯との幅、長さ、形、色が調和するか
骨や歯肉のボリュームが不足していると、どれほどきれいな人工歯を作っても、歯が長く見える、歯肉が下がって見える、歯と歯の間が黒く見えるなどの問題が生じることがあります。
インプラントを選択する場合、骨の状態によっては骨造成(GBR)が必要になることがあります。歯肉の厚みや形が不足している場合には、歯肉移植を検討することもあります。
これはインプラントに限った話ではありません。接着性ブリッジでも、欠損部の歯肉や歯槽堤の形によっては、人工歯が自然に見えるように歯肉移植などを検討することがあります。
審美性は、インプラントか接着性ブリッジかという方法だけで決まるものではありません。骨と歯肉を含め、人工歯を自然に見せられる環境があるかどうかが大切です。
接着性ブリッジ・インプラント・従来型ブリッジの違い
接着性ブリッジ
接着性ブリッジは、歯を削る量を抑え、外科処置を避けられる治療です。若い方や、将来の変化を見ながら治療を考えたい方にとって、特に大きな意味があります。
一方で、脱離や破損が起こる可能性があるため、接着面の清掃、接着操作、噛み合わせの設計、定期的な確認が重要です。
インプラント
インプラントは、隣在歯を削らずに固定式の歯を補える治療です。骨・歯肉・噛み合わせ・成長の状況などの条件が整っていれば、有力な選択肢となります。
一方で、外科処置が必要です。前歯部では、骨造成や歯肉移植が必要になる場合があり、長期的な歯肉の変化、天然歯との位置関係、周囲炎なども含めて考える必要があります。
従来型ブリッジ
従来型ブリッジは、固定式で安定した治療方法です。隣在歯にすでに大きな詰め物・被せ物があり、被せ物による治療が必要な場合には、合理的な選択肢となることがあります。
一方で、支えとなる歯を形成する必要があります。健康な隣在歯を大きく削る必要がある若年者の上顎側切歯先天欠損では、慎重に考えるべき治療法だと当院では考えます。
当院が実際に確認する判断基準
当院では、年間100本以上のインプラント治療を行っています。しかし、インプラントの本数を増やすこと自体を目的にはしていません。
当院のインプラント治療の本数が、必要以上に何百本という規模にならない理由もここにあります。インプラントが本当に必要な患者さんへ、必要な部位に、適切な診断と治療計画のもとで行うことを大切にしているからです。
上顎側切歯の先天欠損では、欠損部だけを見て治療法を決めることはありません。
- 顔貌、口唇、笑ったときの歯肉の見え方
- 歯並びと噛み合わせ
- 犬歯誘導を含む前歯の機能
- 欠損部のスペースと隣在歯の位置
- 支えとなる歯のエナメル質の量と形態
- 歯の大きさ、左右差、色調
- 骨の量と形態
- 歯肉の厚み、歯肉のライン、乳頭の状態
- 歯ぎしり・食いしばりの有無
- 清掃性とメインテナンスのしやすさ
- 将来、別の治療法を選ぶ可能性
治療計画は、人工歯を一本作って終わりではありません。その歯が、口元、噛み合わせ、周囲の組織、患者さんの生活の中で、長期的にどのように機能するかまで考える必要があります。
インプラントを選ぶことが適切な場合もあります
当院では、上顎側切歯の先天欠損に対してインプラントを否定しているわけではありません。
成長や歯槽部の変化を慎重に評価したうえで、骨と歯肉の条件が整い、スペース、隣在歯の位置、噛み合わせ、患者さんの希望を含めてインプラントが適している場合には、選択肢としてご説明します。
大切なのは、「インプラントか、接着性ブリッジか」を先に決めることではありません。診査・診断を行い、患者さんにとって侵襲、機能、審美性、将来の選択肢のバランスがよい方法を選ぶことです。
よくある質問
上顎側切歯が先天的にない場合、インプラントは必要ですか?
必ずしも必要ではありません。矯正治療によるスペースクローズ、接着性ブリッジ、インプラント、従来型ブリッジなどの選択肢があります。歯並び、噛み合わせ、骨や歯肉の状態、年齢、希望を確認して決めます。
永久歯が生えてこない場合、何歳ごろに相談すればよいですか?
永久歯が生える時期を過ぎても前歯が生えてこない、乳歯が残っているなどの場合は、早めに歯科医院でレントゲン写真を撮り、永久歯の有無や位置を確認することをおすすめします。治療をすぐ始めるかどうかは別として、将来の選択肢を考えるための診断は早い方が有利なことがあります。
大人になっても乳歯が残っているのですが、抜くべきですか?
乳歯の状態、根の吸収、虫歯や歯周病の有無、噛み合わせ、後継永久歯の有無によって判断します。乳歯をできるだけ残した方がよい場合もあれば、治療計画に応じて抜歯を検討する場合もあります。
インプラントは何歳から受けられますか?
年齢だけで一律に決めることはできません。成長の状況、顔面・歯槽部の変化、噛み合わせ、骨や歯肉の状態などを確認して判断します。特に前歯部では、長期的な審美性も重要です。
接着性ブリッジは外れやすいですか?
接着性ブリッジには脱離の可能性があります。ただし、適切な症例選択、設計、接着操作、噛み合わせの調整、定期的な確認を行うことで、長期的に機能することが期待できます。脱離した場合も、再接着や再製作を検討できることがあります。
接着性ブリッジは将来インプラントに変更できますか?
接着性ブリッジは、歯を削る量を抑えられるため、将来インプラントを含む別の治療法を検討する余地を残しやすい治療です。ただし、将来の治療の可否は、骨や歯肉、歯並び、全身状態などによって決まります。
前歯の先天欠損で、入れ歯以外の方法はありますか?
あります。状態によって、接着性ブリッジ、インプラント、従来型ブリッジ、矯正治療によるスペースクローズなどを検討します。義歯が唯一の選択肢とは限りません。
骨造成や歯肉移植が必要になるのはどのような場合ですか?
欠損部の骨や歯肉の量・形が不足し、人工歯を自然に見せることや、長期的な安定性が難しいと判断される場合に検討します。必要性は、レントゲン写真、CT、口腔内の診査、笑ったときの口元などを確認して判断します。
矯正治療が終わったあとでも相談できますか?
はい。矯正治療後にスペースが残っている方、すでに接着性ブリッジや義歯を使用している方、インプラントを勧められて迷っている方もご相談ください。現在の状態と将来の希望を確認し、治療の選択肢をご説明します。
まとめ
上顎側切歯の先天欠損では、「歯がないからインプラント」という単純な判断をしてはいけません。
当院では、前歯部インプラントを含め、多くのインプラント治療を行っています。そのうえで、若年者の上顎側切歯先天欠損に対しては、接着性ブリッジを必ず第一に提案し、積極的に勧めます。
接着性ブリッジは、若い方に対する妥協的な仮の治療ではありません。適切な診断、設計、接着操作、メインテナンスを行うことで、歯や周囲組織への侵襲を抑えながら、機能と審美性を目指し、将来の選択肢を守るための治療です。
インプラントが適切な場合には、当院でも責任を持ってご提案します。ただし、本当に必要性があるかを十分に検討せず、欠損部にインプラントを入れることは、当院では行いません。
「インプラントが必要と言われたけれど、ほかの方法も知りたい」「永久歯が生えてこない」「大人になっても乳歯が残っている」などでお悩みの方は、ご相談ください。治療法ごとの利点と注意点を説明し、ご自身で納得して選べる治療計画をご提案します。
自由診療に関するご案内
接着性ブリッジ、インプラント、セラミックによる補綴治療は、原則として自由診療です。治療内容、費用、期間、回数は、欠損部の状態、骨や歯肉の状態、矯正治療や歯周組織の処置の必要性などにより異なります。
接着性ブリッジでは、脱離、破損、着色、再接着・再製作が必要となる可能性があります。インプラントでは、外科処置、治癒期間、骨造成・歯肉移植が必要となる場合があり、感染、周囲炎、骨や歯肉の変化、補綴物の破損・再治療の可能性があります。従来型ブリッジでは、支台歯の形成、虫歯や歯髄・歯周組織への影響、再治療が必要となる可能性があります。適応および治療結果には個人差があります。
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乳歯の晩期残存、後続永久歯の確認、矯正と補綴を含めた小児期からの治療設計については、永久歯が生えてこない・乳歯が抜けない子どもへ|先天欠損と乳歯の晩期残存で確認することもあわせてご覧ください。