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コラム
【Straumann Pro Arch症例】上下顎各4本をまっすぐ埋入し、約1年で治療した40代女性

【Straumann Pro Arch症例】上下顎各4本をまっすぐ埋入し、約1年で治療した40代女性

今回は、重度の歯周炎によって多くの歯を残すことが難しくなった40代女性に対し、上下顎それぞれ4本のストローマンインプラントで固定式の人工歯を支えた症例をご紹介します。

本症例では、上下顎に4本ずつ、合計8本のインプラントをまっすぐに埋入しました。Straumann® Pro Arch™の考え方を用い、CT、頭部X線規格写真(セファログラム)、口腔内スキャン、治療後の歯並びを再現した模型を組み合わせて、骨格、口元、噛み合わせ、清掃性まで含めて治療計画を立てています。

症例の概要
40代女性/重度歯周炎/上下顎に各4本のインプラントをまっすぐに埋入/インプラント手術1回/手術当日に固定式の仮歯を装着/上下顎ジルコニア/初診から最終的な歯の装着まで約1年・通院約16回/装着後3年経過

※治療結果、治療期間、必要なインプラント本数、手術当日の仮歯装着の可否には個人差があります。

約1年・1回のインプラント手術で最終的な歯まで進んだ症例

本症例では、上下顎の抜歯とインプラント埋入を同じ日に行い、インプラント手術は1回でした。手術当日に固定式の仮歯を装着し、その後は仮歯を段階的に調整しながら、初診から約1年で最終的なジルコニアの歯を装着しました。

多くの歯を対象とする治療としては、手術回数と治療期間を抑えて進められた症例です。ただし、これは骨の状態や、手術直後にインプラントが十分安定していたことなど、複数の条件がそろった本症例の経過です。すべての患者さんが1回の手術や約1年で治療を終えられるわけではありません。

初診時の状態と患者さんの希望

患者さんは、上顎前歯が自然に抜けたことをきっかけに来院されました。歯科治療への不安から継続受診が難しい時期があり、徐々に食事もしにくくなっていました。

初診時には、多くの歯に強いぐらつきがあり、多量の歯石と複数の歯の欠損がみられました。歯ぐきの検査やX線検査などを総合し、重度の歯周炎と診断しました。

重度歯周炎により多数歯のぐらつき、歯石、欠損がみられる初診時口腔内写真
多数歯のぐらつき、歯石、欠損、前歯の傾きがみられた初診時の状態です。
Straumann Pro Arch治療前の前歯と口元の状態
初診時の口元です。前歯の位置と、口元に対する歯の見え方を確認しました。
重度歯周炎症例の残存歯と歯を支える骨の状態を示す初診時パノラマX線画像
残っている歯、欠損部、歯を支える骨の状態を全体的に確認しました。

CTと頭部X線規格写真を用いて、骨格と口元から治療を考える

CTと頭部X線規格写真の分析では、上下の前歯が歯を支える骨に対して大きく前方へ傾き、下顎が後方に位置する傾向が確認されました。この状態では、現在の歯の位置をそのまま基準に人工の歯を作っても、口元と噛み合わせを適切に整えることは困難です。

頭部X線規格写真(セファログラム)は、矯正治療で使用されることが多い検査ですが、このような口全体の治療にも役立ちます。当院では、CTで骨の状態や神経・上顎洞の位置を確認するだけでなく、頭部X線規格写真で上下顎の位置関係、前歯の傾き、口元のバランスを分析し、治療後の歯の位置を多角的に検討しています。

上下顎骨と歯の位置関係を確認した治療前CT画像
CTで骨と歯の位置関係を確認しました。
上下顎の位置関係と前歯の傾きを確認した頭部X線規格写真の分析
頭部X線規格写真で、骨格と前歯の傾きを分析しました。

比較した治療の選択肢

  1. 歯周治療後、現在の歯の位置を基準に失った歯を補う
  2. 歯周治療後に保存できる歯を選び、矯正治療、被せ物、義歯またはインプラントを組み合わせる
  3. 保存が難しい歯を抜歯し、総義歯またはインプラントで支える固定式の歯で、口全体を再構成する

歯を保存すること自体は大切ですが、本症例では、現在の歯の位置、重度歯周炎、残った歯を将来再治療する可能性、治療期間、手術回数、費用を総合して検討する必要がありました。患者さんは固定式の歯を希望され、各方法の利点と限界を相談したうえで、上下顎をインプラントで支える固定式の人工歯で治療する方針となりました。

治療後の歯並びを模型上で先に設計

インプラントを入れやすい場所から考えるのではなく、まず治療後の歯の位置を模型上で設計しました。舌のための空間を狭めすぎないよう歯列の幅を保ち、前方へ傾いていた下の前歯を起こした位置に、上の前歯を合わせました。歯の高さや前歯の先端位置は、顔貌や発音も考慮して検討しました。

右上の奥歯部分には大きな骨の欠損がありました。さらに奥まで人工の歯を延ばす場合には、骨を増やす処置や治療期間の延長が必要になる可能性があります。そこで本症例では、機能に必要な噛み合わせの範囲を確保しながら、歯列を必要以上に奥へ延長しないショートアーチ(短縮歯列)を採用しました。

ショートアーチは、すべての大臼歯を必ず補うのではなく、患者さんごとの噛み合わせ、噛む力、上下の歯の関係などを確認して、機能に必要な歯列を設計する考え方です。適切に症例を選択すれば、短縮した歯列でも日常生活に必要な口腔機能を確保できることが報告されています。ただし、すべての方に適するわけではありません。

前歯位置と噛み合わせを検討したStraumann Pro Arch症例の診断用模型
治療前の歯列と治療後の歯列案を重ね、前歯の位置、噛み合わせ、歯列の幅を検討しました。

上下顎に各4本をまっすぐ配置したStraumann Pro Arch

本症例では、上下顎に各4本、合計8本のストローマンインプラントを使用しました。利用できる骨があり、治療後の歯を支える位置へインプラントを配置できると判断したため、8本すべてを傾斜させず、まっすぐに計画しました。

上顎後方には大きな骨欠損がありましたが、残っている骨を利用できる位置を検討し、上顎洞へ骨を増やす手術を行わずに治療を進めました。4本で固定式の歯全体を支えられるかは、骨の状態、インプラントの位置、人工の歯の長さ、噛む力、清掃性などによって異なります。「4本だから十分」と一律に決めるものではありません。

上顎4本のStraumann Pro Archインプラント埋入シミュレーション
上顎4本の埋入シミュレーションです。
下顎4本のStraumann Pro Archインプラント埋入シミュレーション
下顎4本の埋入シミュレーションです。

All-on-4との違い

All-on-4は、片顎の固定式の人工歯を4本のインプラントで支える方法で、後方のインプラントを傾ける設計がよく用いられます。一方、Straumann Pro Archは、患者さんの骨や治療後の歯の設計に応じて、インプラントの本数や角度を決める治療の考え方です。本症例も上下顎各4本ですが、すべてまっすぐに配置しているため、All-on-4症例とは表記していません。

抜歯と同時にインプラントを埋入

手術当日は、保存が困難な歯を抜歯し、上下顎へインプラントを埋入しました。一部では、歯を支えていた骨や歯ぐきの形をできるだけ保つ目的で、歯根の一部を意図的に残す処置を行っています。

この方法は、骨や歯ぐきの形を完全に維持できるものではありません。残した歯根の感染や露出などにより、追加処置が必要になる可能性があるため、継続的な経過観察が必要です。

手術当日に固定式の仮歯を装着

ガイドを用いてインプラントを埋入し、手術直後のインプラントが十分に安定していることを確認したうえで、上下顎へ固定式の仮歯を装着しました。

これは最終的な歯ではなく、手術直後の見た目と噛み合わせを保ちながら、治癒を待つための仮歯です。インプラントの安定や骨の状態が十分でない場合は、手術当日に固定式の仮歯を装着せず、治癒を優先することがあります。

上下顎のインプラント手術当日に装着した固定式の仮歯
抜歯と上下顎へのインプラント埋入後、条件を確認して固定式の仮歯を装着しました。
上下顎インプラント手術後のCT確認画像
術後CTで、インプラントが計画した位置とおおむね一致していることを確認しました。

段階的な仮歯で、顎の位置と清掃性を確認

術後は顎の位置が徐々に右後方へ変化し、約2か月で安定しました。この経験から、現在当院では同様の症例に対して、治療期間が多少長くなっても、インプラント手術の前に診断用の1stプロビジョナル(最初の仮歯)を使用します。実際の生活の中で顎の位置をより正確に確認してから、インプラント手術へ進むようにしています。

この症例は、治療後の結果だけでなく、治療の途中で生じた顎の位置の変化から学び、その後の診療手順を改善するきっかけとなった症例でもあります。

顎の位置が安定した段階で、口腔内スキャナーを用いて歯ぐき、インプラントの位置、噛み合わせを記録し、2つ目の仮歯を作製しました。これを約3か月使用し、歯の形、発音、噛み合わせ、清掃性を確認してから最終的な歯へ進みました。

2つ目の固定式仮歯を作るための口腔内スキャン
顎の位置が落ち着いた段階で再度スキャンしました。
2つ目の固定式仮歯を装着した口腔内写真
2つ目の仮歯で噛み合わせと清掃性を確認しました。

使用後の仮歯は染め出しを行い、プラークがたまりやすい場所と、歯ぐきに接する面への入り込みを確認しました。樹脂製の仮歯は、ジルコニアの最終的な歯と比べて汚れや着色が付きやすいため、この評価を最終形態の調整に利用しました。

使用後の固定式仮歯を染め出してプラークの付着部位を確認した写真
仮歯を染め出し、プラークがたまりやすい部分を確認しました。

最終的な歯にはジルコニアを使用

2段階の仮歯で確認した歯の位置、顎の位置、噛み合わせ、清掃性を反映し、上下顎とも一体型のジルコニアで最終的な歯を作製しました。歯のすり減りや横方向の強い力から装置を守るため、夜間はナイトガードを使用していただいています。

上下顎Straumann Pro Arch治療後のジルコニア固定式人工歯
上下顎に一体型ジルコニアの最終的な歯を装着した状態です。
Straumann Pro Arch治療後の口元とジルコニア固定式人工歯
骨格と口元のバランスを確認しながら設計した最終的な歯です。
上顎の一体型ジルコニア固定式人工歯
上顎の一体型ジルコニアです。
下顎の一体型ジルコニア固定式人工歯
下顎の一体型ジルコニアです。

約1年後に取り外し、歯ぐきと清掃状態を確認

最終的な歯を装着してから約1年後に上下の装置を取り外し、染め出しを行って、歯ぐきと接する面やインプラント周囲を確認しました。本症例では、歯ぐきと接する面の深部に明らかなプラークの入り込みは認めませんでした。

歯ぐきと装置が接する部分は、外部から汚れが入り込みにくい形を考えて設計しました。また、研磨されたジルコニアは、比較的プラークが付着しにくい可能性が研究されています。ただし、この症例写真だけで、歯ぐきとジルコニアの付着状態を組織学的に証明することはできません。装置の形、セルフケア、定期的な専門的清掃を組み合わせて管理することが重要です。

装着約1年後に取り外した上顎ジルコニアの歯ぐきと接する面
約1年後の上顎装置の裏面です。
装着約1年後に取り外した下顎ジルコニアの歯ぐきと接する面
約1年後の下顎装置の裏面です。
装着約1年後に上顎の固定式人工歯を取り外して確認した歯ぐき
上顎装置を取り外した直後の歯ぐきです。
装着約1年後に下顎の固定式人工歯を取り外して確認した歯ぐき
下顎装置を取り外した直後の歯ぐきです。

※上の画像は最終的な歯の装着約1年後に撮影したものです。以下の「3年経過」は、その後も含めた現在の経過観察期間を示します。

治療後3年の経過

最終的な歯を装着してから3年が経過しています。現在まで、インプラントや人工歯に修理を必要とする問題は確認されていません。約3か月ごとのメインテナンスを継続し、人工歯、噛み合わせ、インプラント周囲の歯ぐき、意図的に歯根の一部を残した部位を観察しています。

一方、長期的には右下奥のインプラント周囲へ歯ぐきを補う処置が必要になる可能性があり、引き続き経過を確認します。また、固定式の人工歯は、装着すれば管理が終わる治療ではありません。清掃が不十分な場合には、インプラント周囲の炎症や人工歯を固定する部品の問題が生じる可能性があります。

治療期間・通院回数・現在の参考費用

治療期間初診から最終的な歯の装着まで約1年
通院回数約16回
インプラント手術1回(上下顎を同日に実施)
経過観察最終的な歯の装着後3年
メインテナンス約3か月ごと

現在の料金設定による参考総額(税込)

本症例の治療は自由診療です。

上下顎各4本の固定式全顎インプラント治療6,050,000円(税込)

上記は、本症例と同じく上下顎に合計8本のインプラントを使用する現在の標準料金へ当てはめた参考総額です。全顎的な診断、上下顎の診断用仮歯、インプラント合計8本、ガイドを用いた手術、手術後の仮歯、ジルコニアの最終的な歯、通常のスキャン・調整に加え、本症例で行った歯根の一部を残す処置、骨補填材、角度を補正する部品の費用も含まれます。

ただし、本症例とは異なる広範囲の骨造成や歯ぐきの移植などが必要な場合は、総額が異なることがあります。

主なリスク・副作用・限界

  • 抜歯・インプラント手術に伴う痛み、腫れ、出血、感染
  • 神経、血管、鼻腔、上顎洞などを損傷する可能性
  • インプラントが骨と結合しない、または脱落する可能性
  • インプラントが十分安定せず、手術当日に固定式の仮歯を装着できない可能性
  • 仮歯や最終的な人工歯の摩耗・破損、固定部品の緩み・破折
  • 清掃が不十分な場合のインプラント周囲の炎症
  • 意図的に残した歯根の感染・露出や、追加処置が必要となる可能性
  • 顎の位置の変化により、仮歯や最終的な歯の調整が必要となる可能性
  • ショートアーチの適否は、噛む力や上下の歯の関係などによって異なること
  • 長期的に歯ぐきの移植、修理、人工歯の交換が必要となる可能性
  • 治療結果、治療期間、費用には個人差があること

まとめ|インプラントの本数ではなく、診断から治療を考える

本症例では、重度歯周炎だけでなく、上下顎の位置関係、前歯の傾き、顎の位置の変化、上顎奥歯部分の骨欠損まで含めて治療計画を立てました。その結果、上下顎のインプラント手術を1回にまとめ、初診から約1年で最終的な歯まで進めることができました。

重要なのは、最初から「上下4本のインプラントを入れる」と決めることではありません。残せる歯、骨格、口元、必要な歯列の長さ、清掃方法、手術の負担、費用を検討し、治療後の歯並びを再現した模型と仮歯を通して、治療のゴールを確認することです。

多くの歯が動いている、歯周炎で歯を残せるか不安、総入れ歯と固定式インプラントのどちらが適するか知りたいという方は、まず現在の状態を正確に診断し、複数の選択肢を比較することから始めます。


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