機器を導入しただけで、強みになったわけではありません
前回のコラムでは、当院がデジタル歯科にこだわる理由と、デジタル技術によって患者さんへどのような価値を提供したいと考えているかをお伝えしました。
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長期的な安定を見据えた診断・設計・メインテナンスについては、インプラントが失敗する原因とはで詳しくご紹介しています。
今回は、デジタル歯科がどのように当院の強みになっていっ
デジタル歯科コラム
第1回:当院の強み「デジタル歯科」|治療精度を高め、患者さんの負担を減らすために
第3回:デジタル歯科はAIや機械だけでは完成しない|歯科医師と歯科技工士が行う治療設計
現在、当院では口腔内スキャナー、CT、顔貌スキャナー、X-Guideなどを日常診療に活用しています。しかし、機器を導入したその日から、治療が速く、正確になったわけではありません。
アナログ時代に熟練した歯科医師と歯科技工士が作り上げてきた「匠の精度」を、デジタルでどのように再現するのか。さらに、デジタルだからこそ可能になる診断、設計、共有、検証を、どのように治療結果へ結びつけるのか。
その答えを探しながら、歯科医師と歯科技工士が試行錯誤を重ねてきたことが、現在の当院のデジタル歯科を支えています。
この記事でお伝えしたいこと
デジタル機器は、導入するだけで医院の強みになるものではありません。
正確なデータを取得する技術、その情報から治療のゴールを設計する力、設計したものを口腔内へ再現する歯科医師の技術、そして結果を検証して改善を続ける姿勢が必要です。
当院のデジタル歯科は、デジタルとアナログの両方を使いながら、患者さんにとってより良い結果を目指してきた積み重ねです。
保険診療に導入される以前から始めていたデジタル化
保険診療において、口腔内スキャナーを用いた光学印象が診療報酬に導入されたのは2024年です。
当院がデジタル機器を本格的に診療へ取り入れ始めたのは、それより何年も前のコロナ禍の時期でした。
保険診療で使用できるようになったから始めたのではありません。これからの歯科医療に必要な技術になると考え、アナログ時代の精度に近づき、さらにデジタルならではの価値を患者さんへ届けるために取り組み始めました。
当時から考えていたのは、治療の精度だけではありません。
従来の歯科技工では、口腔内で採得した印象体から石膏模型を製作し、それを院内で取り扱い、歯科技工所へ受け渡す工程が必要です。印象体や模型は、適切な洗浄・消毒、保管、運搬が欠かせません。
口腔内の形態をデジタルデータとして取得し、オンラインで歯科技工士へ共有できれば、印象体や石膏模型を物理的に取り扱い、受け渡す工程を減らせます。
人や物の接触機会を可能な限り少なくすることが求められたコロナ禍において、患者さんだけでなく、院内スタッフや歯科技工士を含めた診療環境の安全性を考えたことも、デジタル化を進めた理由の一つでした。
実際に始めてみると、簡単ではありませんでした
口腔内をスキャンし、データを歯科技工所へ送れば、すぐにアナログと同じ、あるいはそれ以上の結果が得られる。そのように思われるかもしれません。
しかし、実際はそれほど単純ではありませんでした。
同じ口腔内スキャナーを使っても、スキャンする順番、機器の動かし方、唾液や歯肉の状態、読み取りにくい部分への対応によって、取得されるデータは変わります。
装着時に違和感があった場合、その原因はどこにあるのか。
スキャンなのか。データ処理なのか。設計なのか。加工なのか。材料の変化なのか。それとも、歯科医師が行った歯の形成や、口腔内へ装着する際の処置・調整なのか。
一つひとつの工程を振り返り、原因を探し、次の症例で修正する。その繰り返しが必要でした。
デジタル機器を操作できることと、デジタルで精度の高い治療ができることは、同じではありません。
機器を使用できる段階から、その機器を患者さんの治療結果へつなげられる段階になるまでには、多くの検証と経験が必要でした。
「なんとなく良い」から、「何ミリ、何度だから良い」へ
アナログ中心の時代には、治療結果を「良い位置に入っている」「きれいに仕上がっている」と、経験や感覚をもとに評価する場面が多くありました。
熟練した歯科医師や歯科技工士が持つ感覚は、現在も非常に重要です。
一方、デジタル技術によって、その感覚を画像や数値として確認できるようになりました。
計画した位置と比べて何ミリずれているのか。角度にどの程度の差があるのか。歯の移動は計画通りに進んでいるのか。補綴装置の形や噛み合わせには、どこに修正の余地があるのか。
計画と結果を比較し、違いが生じた原因を分析する。そのフィードバックを次の治療へ反映し、もう一度検証する。
このサイクルを繰り返すことで、修正点が明確になり、より繊細な手技を、より高い再現性で行えるようになります。技術を向上させるスピードも速くなります。
野球のフォーム解析と同じように
これは、現代の野球におけるフォーム解析に似ています。
以前は、指導者が投手の動きを見て、「腕が少し下がっている」「体の開きが早い」と、主に経験や感覚をもとに指導していました。
現在では、ハイスピードカメラや投球解析機器を用いて、腕や体幹の角度、リリースポイント、ボールの回転数・回転軸などを数値として確認できます。
どの動きがどれだけ変わり、その結果として球速や回転効率がどう変化したのかを検証する。その選手に必要なトレーニングを考え、フォームを修正し、再び計測する。
この繰り返しによって、感覚だけでは気づきにくかった小さな問題を修正し、より効率的に技術を高められるようになりました。
歯科医療も同じです。
デジタルは、熟練した歯科医師や歯科技工士の感覚を否定するものではありません。その感覚を可視化して検証し、再現性の高い技術へ磨いていくための道具です。
学んだことを、歯科医療界へ還元する
当院が試行錯誤のなかで培ってきたデジタル歯科の知識と経験は、院内の診療だけにとどめず、歯科医師への教育にも還元しています。
インプラントスクール 四国 第1期では、第11回「デジタルテクノロジー」の分野を担当し、デジタルワークフローの可能性だけでなく、実際に使用するなかで分かった注意点や限界、精度を高めるためのポイントについて講義しました。
2026年4月に開講したインプラントスクール 大阪でも、今期、同じく「デジタルテクノロジー」の分野を担当する予定です。
また、2026年6月に東京国際フォーラムで開催された第44回日本顎咬合学会学術大会・総会では、「移植・再植4 補綴前処置としての移植・再植を考える」のセッションに登壇し、デジタル技術を応用した歯の移植について講演しました。
私たちが伝えたいのは、「この機器を使えばうまくいく」という方法ではありません。
どの情報を取得し、どのように組み合わせるのか。どの場面でデジタルを使い、どこにアナログの確認を加えるのか。計画と結果に違いがあったとき、どの工程を見直すのか。
実際の臨床で試行錯誤してきたからこそ分かる、デジタル歯科の可能性と限界の両方を伝えることを大切にしています。
機器を持つことではなく、使いこなす知恵が強みになる
デジタル機器は、導入したその日から医院の強みになるものではありません。
デジタル上で正確なゴールを設定し、そこから治療を逆算する力。取得したデータを正しく読み取り、複数の情報を組み合わせる力。設計したゴールを口腔内へ再現する歯科医師の技術。そして、患者さんにとって本当に価値のある治療かを考え、結果を振り返り、改善を続ける姿勢。
それらが組み合わさって、初めてデジタル歯科は医院の強みになります。
当院にとって、デジタル歯科は保険診療で使えるようになったから始めたものではありません。患者さんにより良い治療を提供するために必要だと考え、制度に先行して試行錯誤を続けてきたものです。
その結果、デジタルの長所だけでなく限界も理解し、必要な場面ではアナログの技術を取り入れながら、患者さんごとに適切な方法を選択する現在の診療スタイルにたどり着きました。
今日より明日、明日より明後日の治療を良くするために
当院は、「今の治療が良ければ、それで十分」とは考えていません。
一つひとつの治療を振り返り、計画と結果を比較する。わずかな違いも画像や数値で確認し、その原因を考え、歯科技工士を含めたチームで次の治療へ反映する。
今できる最善の治療を提供しながら、今日より明日、明日より明後日、少しでも良い治療を提供できるよう研鑽を続けています。
それは、目の前の患者さんだけでなく、これから当院を訪れる患者さんの未来のためでもあります。
当院の理念は、「私たちに関わる全ての方々に、いつまでも若々しく健康で笑顔溢れる生活を送って頂くこと」です。
デジタル技術とアナログの技術、歯科医師と歯科技工士の知識と経験を組み合わせ、患者さんの現在だけでなく、その先の生活まで考えた治療を提供する。
そのために、これからも準備、検証、改善を積み重ねていきます。
※治療方法や使用する機器、デジタルとアナログの工程は、患者さんのお口の状態や治療目的によって異なります。すべての治療を同じデジタルワークフローで行うものではありません。十分な診査・診断を行い、患者さんと相談したうえで治療方法を決定します。