インプラント治療の費用を調べると、最終的な被せ物である「上部構造」の材料によって料金が分けられていることがあります。ハイブリッドレジン、メタルボンド、ジルコニアなどから選択し、ジルコニアを最も高額な材料としている歯科医院も少なくありません。
一方、はりまや橋溝渕歯科・矯正歯科クリニックでは、インプラントの最終補綴にジルコニアを標準採用し、材料を変更するための追加料金を設けていません。
最大の理由は、白さや強度だけではありません。インプラント周囲の組織を長期的に守るうえで重要となる、ジルコニアの生体親和性を重視しているからです。
インプラントの被せ物は、見える部分だけではありません
インプラントの補綴物には、歯ぐきの中を通ってインプラントへ接続される「粘膜貫通部」があります。ここは、口腔内のプラークや細菌と、その内側にあるインプラントや骨との境界になる場所です。
インプラント周囲にも軟組織による封鎖が形成されますが、天然歯とまったく同じ構造ではありません。そのため、骨の中のインプラント体だけでなく、歯ぐきと接する補綴物の材料、形態、表面性状まで考える必要があります。
当院がジルコニアを使用する最大の理由は「生体親和性」です
適切に設計され、十分に研磨されたジルコニアは、インプラント周囲の上皮や結合組織が安定するための環境をつくりやすい材料と考えられています。
歯ぐきと補綴物の境界に安定した軟組織の封鎖が形成されることは、プラークや細菌が深部へ侵入するのを抑えるうえで重要です。また、研究条件による違いはありますが、よく研磨されたジルコニアは、チタンなどと比較して細菌の付着が少なかったという報告もあります。
もちろん、ジルコニアを使用すればインプラント周囲炎を防げるという意味ではありません。補綴物の形態、表面の仕上げ、セルフケア、メインテナンスなども大きく関係します。材料だけで軟組織の安定が決まるわけではありません。
それでも、長期間にわたり歯ぐきと接する部分に何を使用するかは、材料費だけで判断できる問題ではありません。生物学的に適切と考える材料を追加オプションにするのではなく、標準治療に含めることが当院の方針です。
Zero Bone Loss Conceptsから学んだこと
インプラント周囲の骨を安定させるためには、インプラント体の種類や埋入位置だけでなく、軟組織の厚み、アバットメントや補綴物の材質、形態、表面の仕上げまで考える必要があります。
この考え方を体系的に示しているものの一つが、リトアニアのTomas Linkevičius(トーマス・リンケヴィシャス)先生が提唱する「Zero Bone Loss Concepts」です。
院長は、このコンセプトを講義や文献だけで理解するのではなく、リトアニアまで赴き、リンケヴィシャス先生から直接学んできました。当院がジルコニアを標準採用するのは、単に新しい材料だからではなく、インプラント周囲の骨と軟組織を安定させるという治療全体の考え方に基づいています。
「ジルコニア」と表面の「グレーズ」は同じものではありません
ジルコニアの表面に艶や色を加える「グレーズ剤」は、ジルコニアそのものではなく、ガラス質を含む陶材です。そのため、ジルコニアの補綴物というだけで、歯ぐきと接する部分の特性を十分に生かせるとは限りません。
当院では、歯肉縁下、つまり歯ぐきの内側へグレーズ面を入れないことを原則としています。粘膜貫通部はジルコニアそのものを適切に研磨し、できるだけ滑沢に仕上げます。
研磨面とグレーズ面では、表面の粗さや細菌付着に違いが生じる可能性が報告されています。短期的な臨床研究では明確な差が認められなかった報告もあり、今後の検討が必要ですが、当院では見える部分の艶だけでなく、見えない歯ぐきの内側をどの材料で、どのように仕上げるかを重視しています。
補綴物の形態も、インプラント周囲の組織に影響します
Ramon Gomez Meda(ラモン・ゴメス・メダ)先生らが提唱する「Esthetic Biological Contour(EBC)」では、インプラント補綴の立ち上がりを複数の領域に分け、それぞれの役割に応じて形態、材質、表面処理を設計します。
EBC 2.0でも、インプラントは天然歯と比べて軟組織による防御構造が異なるという前提に立ち、補綴物の形態、材料、表面性状を適切に管理する重要性が示されています。
ジルコニアを使用するだけでは十分ではありません。どの位置から補綴物を立ち上げるのか、歯ぐきをどの程度支えるのか、どこに清掃のための空間を与えるのかを症例ごとに設計する必要があります。当院では、この考え方を即時プロビジョナルやカスタムヒーリングアバットメント、最終補綴の設計へ反映しています。
メタルボンドやハイブリッドレジンを標準採用しない理由
メタルボンドは、金属製のフレームに陶材を焼き付けた補綴物で、長い臨床実績があります。一方で、金属色が歯ぐきから透ける可能性や、異なる材料を組み合わせる構造上の問題があります。
当院では、メタルボンドのインプラント上部構造を取り外した際、粘膜貫通部周辺へプラークが停滞し、臭気を認めた症例も経験してきました。すべてのメタルボンドに問題が起こるという意味ではなく、形態や表面性状、清掃状態にも左右されます。しかし、現在の材料、デジタル技術、生物学的知見を総合すると、当院が標準補綴として積極的に選択する理由は少ないと考えています。
ハイブリッドレジンには修理のしやすさや衝撃を緩和しやすいなどの特徴がありますが、ジルコニアと比較すると、吸水、摩耗、変色、経年的な表面性状の変化が起こりやすい材料です。表面が粗くなるとプラークが停滞しやすくなる可能性があり、長期間粘膜と接する当院の最終補綴にはジルコニアを優先しています。
奥歯と前歯では、ジルコニアの仕上げ方を変えます
臼歯部では強度を優先し、基本的にモノリシックジルコニアを使用します。補綴物の主要部分をジルコニアの一体構造で製作し、表面の陶材が欠けるチッピングのリスクを抑えます。
前歯では、周囲の天然歯と色調や透明感を合わせるため、必要に応じてジルコニア表面へセラミックを築盛します。この方法を別の名称で分け、追加費用としている医院もありますが、当院では審美的に必要と判断したセラミック築盛も標準治療に含めます。
ただし片顎・全顎治療では、前歯でも強度や長期安定性を優先し、築盛を最小限にする、あるいはモノリシックで製作する場合があります。どちらが上位ということではなく、治療範囲、噛み合わせ、審美性、破損時の対応まで考慮して決定します。
デジタル技術でジルコニアの特性を生かす
ジルコニアはCAD/CAMによるデジタル設計・加工との相性に優れています。当院ではCT、口腔内スキャン、噛み合わせの情報、プロビジョナルで確認した歯の形態などを利用し、最終補綴をデジタル上で設計します。
特に全顎治療では、1stプロビジョナルや手術後のプロビジョナルで確認した噛み合わせ、歯の長さ、口元の支え、発音、清掃性を最終補綴へ反映します。
「デジタルで製作すれば必ず高精度になる」わけではありません。スキャン、設計、加工、焼結、適合確認までの工程を適切に管理する必要があります。当院はデジタル技術を活用したインプラント治療へ継続して取り組んでおり、その環境がジルコニアの特性を生かすことにつながっています。
ジルコニアを理解した歯科技工士との連携
精度の高いジルコニア補綴は、歯科医師だけで製作できるものではありません。当院が連携する歯科技工士も、デジタル技工とジルコニアの取り扱いに習熟しています。
歯科医師がインプラントの位置、軟組織、噛み合わせ、清掃性を診断し、歯科技工士と次の情報を共有します。
- 歯肉縁下をジルコニアの研磨面にすること
- グレーズや築盛陶材を歯ぐきの中へ入れないこと
- 清掃器具が通る形態にすること
- プロビジョナルで確認したエマージェンスプロファイルを再現すること
- 必要な強度を確保しながら、過度に厚い形態にしないこと
- 審美性が必要な部分と、強度を優先する部分を分けること
材料を選ぶだけでなく、設計、加工、焼結、研磨、色調表現まで理解した歯科技工士と連携することで、ジルコニアの可能性を十分に生かせると考えています。
ジルコニアだから長持ちするわけではありません
長期的な安定には、インプラントの位置、軟組織の状態、粘膜貫通部の形態、研磨、材料の厚み、噛み合わせ、清掃性、メインテナンスが関係します。
ジルコニア自体の破折や、ネジの緩み、アバットメントなど他の部品に問題が起こる可能性をゼロにはできません。だからこそ当院では、材料だけでなく、全顎診断、プロビジョナルでの検証、デジタル設計、歯科技工士との連携、治療後のメインテナンスまでを一つの治療として考えています。
なぜ、ジルコニアを追加オプションにしないのか
ジルコニアは材料費や製作費がかかるため、高額な選択肢として設定されることがあります。しかし当院では、インプラント周囲の組織を守るために必要だと考える材料を、費用によって選択する追加オプションにはしていません。
当院のインプラント治療費は、決して安価ではありません。一方で、ガイド手術、症例に応じた即時プロビジョナルまたはカスタムヒーリングアバットメント、チタンアバットメント、最終的なジルコニア上部構造、必要に応じた前歯部のセラミック築盛、通常の調整、保証まで、治療の質に必要と考える項目を標準治療に含めています。
材料によって治療を段階分けするのではなく、当院が生物学的、機能的に適切と考える治療を、最初から一つの治療費としてお示しするためです。
まとめ
当院がインプラントの最終補綴にジルコニアを標準採用する最大の理由は、生体親和性です。十分に研磨されたジルコニアを適切な形態で粘膜貫通部に使用し、インプラント周囲に安定した軟組織の環境をつくることを目指します。
大切なのは材料名だけではありません。どの位置にインプラントを埋入し、歯ぐきの中をどのような材料と形態で通過させ、どこまで研磨し、どのような噛み合わせと清掃性を与えるかが重要です。
当院では、ジルコニアを使用するだけでなく、その生物学的・機械的な特性を生かせる診療・技工環境を整えることを大切にしています。
費用全体の見方は「インプラント治療の費用は何を含めて考える?」、1本の治療は「インプラント1本の費用はどこまで含まれる?」、片顎・全顎治療は「All-on-4・All-on-6の費用と治療工程」もご覧ください。
参考文献
- Linkevičius T. Zero Bone Loss Concepts. Quintessence Publishing.
- Esquivel J, Gomez-Meda R, Blatz MB. The Esthetic Biological Contour Concept for Implant Restoration Emergence Profile Design. J Esthet Restor Dent. 2021;33:173-184.
- Esquivel J, Gomez Meda R, Strauss FJ, Blatz MB. The Esthetic Biological Contour Concept 2.0: How to Manage Each Zone of the Implant Restoration Emergence Profile. J Esthet Restor Dent. 2026;38:930-940.
- Ozer F, et al. Influence of Surface Modifications on Bacterial Adherence to Implant Abutment Materials. Int J Periodontics Restorative Dent. 2022;42:657-663.
- Mikulas K, et al. Monolithic Zirconia as a Valid Alternative to Metal-Ceramic for Implant-Supported Single Crowns in the Posterior Region. J Prosthet Dent. 2023.
- Lemos CAA, et al. Survival and Prosthetic Complications of Monolithic Ceramic Implant-Supported Restorations. J Prosthet Dent. 2024.
- Bidra AS, et al. Full-Arch Implant-Supported Monolithic Zirconia Fixed Dental Prostheses: An Updated Systematic Review. J Prosthet Dent. 2021.
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。材料や補綴物の構造、表面処理は、治療部位、噛み合わせ、インプラントの位置、軟組織、治療範囲などによって異なります。