むし歯や歯周病、歯の欠損、噛み合わせの問題が広い範囲に及ぶ場合、一本ずつ治療を積み重ねるだけでは、お口全体として調和した結果にならないことがあります。
例えば、悪くなった歯を順番に被せ物へ変えても、上下の歯が噛み合う位置や高さが適切でなければ、特定の歯に負担が集中する可能性があります。見た目だけを整えても、発音や清掃が難しくなれば、患者さんが実際に使いやすい歯にはなりません。
はりまや橋溝渕歯科・矯正歯科クリニックでは、このようにお口全体を立て直す必要がある方に、デジタル全顎総合診断をご提案しています。
デジタル全顎総合診断の目的は、高額な治療を勧めることでも、インプラント・義歯・被せ物を単純に比較することでもありません。現在の状態をさまざまな角度から記録・分析し、審美性、機能性、清掃性、長期的な安定性を含めた治療ゴールを設計することです。そのうえで、必要な治療方法、治療する順序、概ねの期間、費用をご説明します。
家を建てる前に、設計図と建築模型を作るように

デジタル全顎総合診断は、家を建てる前に設計図を描き、必要に応じて建築模型(縮尺模型)を作る工程に似ています。
土地や建物の状態を調べず、完成後の間取りや構造を決めないまま工事を始めると、途中で柱や配管の位置が合わなくなるかもしれません。お口全体の治療も同じで、一本ずつ治療を始めてから全体の噛み合わせや歯の位置を合わせようとすると、治療した歯を作り直したり、必要以上に歯を削ったりする可能性があります。
診断用ワックスアップやデジタルセットアップは、治療後の歯の形や並びを検討するための「設計図・建築模型」にあたります。ただし、建築模型だけで実際の暮らしやすさをすべて判断できないのと同様に、歯科治療でも、最終物を作る前にプロビジョナルや治療用義歯を口腔内で使用し、噛みやすさ、発音、清掃性などを検証します。
一本の歯ではなく、上下の歯を「一つのお口」として考えます
上下の歯は、それぞれ別に働いているわけではありません。上下の歯が接触し、顎が動き、唇や頬、舌と調和することで、噛む、話す、飲み込む、表情をつくるといった機能が成り立ちます。
そのためデジタル全顎総合診断では、問題が目立つ部分だけでなく、上下顎を含む一口腔単位で診断します。
確認するのは、歯があるかないかだけではありません。
- 顔貌や口元、笑ったときの歯の見え方
- 歯の位置、形、大きさ、並び方
- 上下の歯の正中や噛み合わせの平面
- 噛み合わせの高さ
- 顎を閉じる位置と顎の動き
- 残っている歯、歯周組織、欠損部の状態
- 清掃しやすい形態をつくれるか
- 治療後も管理を続けやすいか
一部分だけを見るのではなく、それぞれがどのように関係しているかを確認します。
デジタル全顎総合診断を検討する主なケース
デジタル全顎総合診断は、総義歯を作る方を含め、すべての患者さんへ一律に行うものではありません。主に、次のような場合に検討します。
- 多数の歯に詰め物・被せ物などの修復、補綴処置が必要
- 治療に伴って多数の歯を抜く必要がある
- 多くの歯を失っており、欠損部を広い範囲で再建する必要がある
- 噛み合わせの高さや顎の位置を変更する可能性がある
- 上下の噛み合わせを一単位として再構成する必要がある
- インプラント、義歯、歯冠修復、矯正、歯周治療などを組み合わせる必要がある
- 顔貌や口元を含め、審美性と機能性を両立する治療ゴールの設計が必要
すでに使用している義歯の噛み合わせ、高さ、見た目がある程度適切で、大きな変更を必要としない場合などは、デジタル全顎総合診断を行わず、現在の義歯から得られる情報を活用して治療できることもあります。必要性は、お口の状態と予定する治療範囲から個別に判断します。
診断が必要な治療では、診断を省いて治療を始めることはできません
当院がデジタル全顎総合診断の適応と判断した場合、この診断を受けずに全顎的な治療を開始することはできません。
多数の歯、上下の噛み合わせ、顎の位置、顔貌などが関係する治療では、限られた診察情報や経験だけで治療計画を確定することは困難です。十分な資料を採得せずに治療を始めると、治療の途中で目標や順序が定まらなくなり、患者さんへ必要な工程、期間、総額を適切に説明できない可能性があります。
そのため、必要性と費用をご説明したうえで診断を希望されない場合は、当院ではその全顎的な治療をお引き受けできません。これは診断を強制するためではなく、当院が責任を持って治療計画を立て、患者さんと治療ゴールを共有できることを、治療開始の前提としているためです。
診断を行わずに治療を受けることをご希望の場合は、他の医療機関での相談も選択肢となります。
デジタル全顎総合診断の料金
デジタル全顎総合診断料は、上下顎を含む一口腔単位で220,000円(税込)です。
この料金は、CTやスキャナーなど検査機器を使用するためだけの料金ではありません。
複数の写真、動画、スキャン、噛み合わせの記録、エックス線画像を集め、それぞれを照らし合わせて分析します。さらに、治療後に目指す歯の形や位置を検討し、どの治療方法を、どの順番で進めるか、どの程度の期間と費用が必要になるかを一つの計画にまとめ、患者さんへ説明するところまでを含みます。
220,000円は、後述する11の検査・記録、資料の統合分析、診断用ワックスアップまたはデジタルセットアップ、治療ゴール・治療方法・順序・概ねの期間・見積りの作成、診断結果の説明までを含む一連の診断工程のセット料金です。
検査項目ごとの個別料金や、一部を実施しなかった場合の減額設定はありません。症例ごとに希望する検査だけを選択する方式ではなく、診断の精度を保つために必要な一連の工程として行います。
診断に使用する検査・記録
お口の中だけでなく、顔貌、顎の動き、噛み合わせ、歯や骨の状態を総合的に確認するため、次の資料を記録します。
写真・動画による記録
- 口腔内写真(お口の中の静止画)
- 顔貌写真(正面・側面など、顔貌の静止画)
- 口腔内動画
- 顔貌動画
- 顎運動の動画
静止画では、歯や歯肉、口元の形と位置を詳しく確認します。動画では、会話、表情、顎の動きなど、止まった写真だけでは分かりにくい状態を確認します。
形態と噛み合わせのデジタル記録
- 口腔内スキャン
- 咬合採得(上下の噛み合わせの記録)
- 顔貌スキャン
お口の中と顔貌を立体的に記録し、歯の位置や形、上下の関係、口元との調和を検討します。
歯・顎骨・顎関節等の画像検査
- 全顎デンタルエックス線写真
- セファロ規格写真(側方・正面)
- フルサイズCT
歯根、歯を支える骨、顎骨、顎関節など、目視だけでは確認できない部分を評価します。インプラントを検討する場合は、骨の量や質、埋入できる位置の可能性も確認します。
これらは、症例ごとに任意の検査を選ぶための一覧ではありません。各資料が異なる情報を補い合うことで、一口腔単位の診断を行います。当院が診断に必要と判断する資料を適切に採得できない場合は、原則としてデジタル全顎総合診断および、この診断を前提とする全顎的な治療をお引き受けできません。
集めた資料をどのように分析するのか
検査資料は、個別に眺めて終わるものではありません。当院では、主に次の項目を関連づけて分析します。
- 顔貌、口元、スマイル
- 歯の位置、形、大きさ、排列
- 顔と歯の正中
- 咬合平面と咬合高径
- 顎位と顎運動
- 上下顎骨、顎関節等の画像所見
- 残存歯、歯周組織、欠損部の状態と今後の見通し
- 骨量・骨質とインプラント埋入の可能性
- セファロ分析
- 審美性、機能性、発音、清掃性
CT、口腔内スキャン、顔貌スキャンなどのデータは、診断上必要な範囲で重ね合わせて分析します。二次元の写真と三次元の形態、歯や骨の内部構造、実際の顎運動を組み合わせることで、治療方法を一方向から決めないためです。
診断用ワックスアップ・デジタルセットアップで治療ゴールを形にします
多数の歯を治療する場合は、「悪いところを治す」だけでなく、治療後の歯をどの位置に、どのような形で作るかを先に検討する必要があります。
そこで、診断用ワックスアップまたはデジタルセットアップを作成します。これは、治療後の歯の形や並び、噛み合わせを模型またはデジタル上で設計する工程です。
当院では、デジタル歯科技工に精通した歯科技工士と連携し、口腔内スキャン、顔貌スキャン、CTなどのデジタル資料をもとに、治療後の歯の形や噛み合わせを検討します。これらの情報を総合し、歯科医師が口腔内の状態を診断して、治療ゴールと治療計画を作成します。
歯科技工士との連携は、治療後の形態を具体的に検討するために重要です。一方、診断と治療方針の決定は、実際の口腔内所見、画像検査、歯周組織、顎運動などを確認した歯科医師が行います。
設計した治療ゴールから逆算することで、次の点を検討できます。
- 残せる歯と、保存が難しい歯
- 矯正治療を先に行う必要があるか
- インプラントを入れる位置と本数
- 義歯または固定式の補綴を選ぶ範囲
- 歯周治療や歯肉・骨への処置が必要か
- 歯を削る量を抑えられるか
- 治療をどの順番で進めるべきか
診断用の設計は、画面どおりの結果を保証するものではありません。実際の治癒や歯の反応を確認しながら調整するための、治療計画の基準となるものです。
高額な治療だからこそ、最終物の前に口腔内で検証します
精密な診断を行っても、画面や模型だけですべてを判断できるわけではありません。実際の口腔内で、食事、会話、清掃を行って初めて分かることがあります。
そのため当院では、治療内容に応じて、プロビジョナルレストレーション(治療用の仮歯)や治療用義歯を使用します。
これらは、最終的な歯が完成するまで見た目を補うだけのものではありません。
- 歯の長さや形
- 噛み合わせの高さ
- 顎を閉じる位置
- 発音
- 唇や口元の支え
- 歯肉との関係
- 清掃のしやすさ
などを実際に確認し、見えてきた改善点を最終補綴物へ反映するための治療工程です。
高額な治療であるからこそ、診断直後に最終物を作るのではなく、診断で設計したゴールを口腔内で検証しながら進めることを大切にしています。
診断後にご説明する内容
診断後は、主に次の内容をご説明します。
- 現在のお口全体の問題点
- 審美面・機能面を含む治療ゴール
- 当院が推奨する治療計画
- 必要に応じた代替治療
- 治療を進める順序
- 概ねの治療期間
- 治療費の見積り
現在は画面を用いた説明を中心に行っています。診断内容を書面やデータでも確認しやすくするため、今後、提供書式を整えることも検討していますが、現時点でPDF等の提供を一律のサービスとしてお約束するものではありません。
治療法を価格や材料名だけで決めないために
インプラント治療、義歯治療、ブリッジ治療、セラミック、矯正治療には、それぞれ異なる役割があります。条件が合う場合は、自家歯牙移植も検討します。同じ欠損でも、残っている歯、骨、歯周組織、噛み合わせ、清掃能力、治療期間への希望によって、適する方法は変わります。
また、高価な材料を選べばお口全体の問題が解決するわけではありません。大切なのは、目標とする審美性・機能性を明確にし、患者さんが清掃・管理できる形態を設計し、その実現に必要な治療方法を過不足なく組み合わせることです。
デジタル全顎総合診断は、特定の治療方法へ誘導するためではなく、複数の選択肢を一つの治療ゴールに沿って整理するための診断です。
治療中の経過評価や計画修正に、診断料を重ねていただくことはありません
全顎的な治療では、歯周組織や骨の治癒、歯の反応、プロビジョナルや治療用義歯での確認結果によって、計画を調整することがあります。
同じ治療ゴールに基づいて治療を継続している間に、当院の判断で必要となる次の評価・変更には、デジタル全顎総合診断料を追加しません。
- より良い結果を目指すための経過評価
- 治癒状態に応じた計画修正
- 医学的・歯科医学的に必要な方針変更
- 必要なCTの再撮影
- 口腔内スキャン、顔貌スキャン、追加資料の採得
- 同じ治療ゴールに基づく義歯、全顎インプラント、全顎補綴等への変更
同じ全顎計画の中で、義歯、全顎インプラント、全顎補綴などの診断料を重ねて算定することもありません。
これは、「最初に立てた計画を変更しない」という意味ではありません。治療中に得られた情報を踏まえ、より適切と判断した方法へ医学的に計画を修正することも、全顎治療の一部と考えています。
新しい全顎計画が必要な場合は、再診断料が発生することがあります
一方、以前の診断をそのまま使用できず、新しい資料と分析に基づいて治療ゴールから作り直す必要がある場合は、再診断料220,000円(税込)が発生することがあります。
主な対象は次のとおりです。
- 診断後、治療を開始しないまま概ね1年以上経過し、お口の状態や治療条件が変化した場合
- 治療の中断から概ね1年以上経過し、状態変化により新しい全顎計画が必要になった場合
- 患者さんのご希望で、当初合意した治療ゴールや計画から大きく異なる方針へ変更し、新しい全顎計画が必要になった場合
材料の軽微な変更や部分的な治療内容の変更など、お口全体の再分析を必要としない場合は、再診断料の対象ではありません。
当院の臨床判断による治療中の計画修正と、患者さんのご希望によって治療ゴールから全面的に作り直す場合を区別し、再診断が必要になるときは、実施前に理由と費用をご説明します。
デジタル全顎総合診断で治療結果が保証されるわけではありません
デジタル全顎総合診断は、治療の不確実性をなくしたり、治療結果や修復物の使用期間を保証したりするものではありません。
歯や歯周組織の状態、骨の治癒、噛む力、全身状態、生活習慣、清掃状態、メインテナンスなどによって、治療経過は変わります。また、検査や治療には、通常のエックス線撮影・CT撮影に伴う放射線被ばくなどがあります。
それでも、治療前に現在の問題点を把握し、目指すゴールと選択肢、必要な工程、費用を整理して共有することには大きな意味があると考えています。
全顎的な治療をご検討の方には、「何を入れるか」を決める前に、「どのようなお口の状態を目指すのか」を一緒に考えるところからご案内します。